Cintiq 13HDをはじめとする
ワコムの液タブCintiqシリーズは
イラスト制作現場でダントツのシェアを誇っています。
デジタルイラストといえばワコム製品
といわれるほどですが、
今ではiPad Proなど一般のタブレットPCでも
イラストを描ける時代になっています。
そんな中で、
(自称)モンスタータブレットの異名を誇る
SONY VAIO Z Canvasは、
本格的なイラストを描く際の負担に十分耐える
スペックを持った数少ないタブレットでしょう。
確かにスペックはモンスター級です。
CPU | Intel Core i7 |
---|---|
メモリ | 8GB~16GB |
SSD | 256GB~1TB |
Z Canvasはクリエイターの要望を取り入れ、
クリエイターのために設計されたタブレットとして開発されました。
VAIO Z Canvasは日本アマゾンでは評価3.5です。
スペックと同じく価格もモンスター級のせいか、
レビュー数も決して多くはありません。
しかし、
米アマゾンでは星4.5という超高評価です。
レビュー数もかなり多いです。
イラスト漫画制作現場で使われるメーカー、
ワコムの液晶ペンタブレットと比較すると
Z Canvasはどこが違うのでしょうか。
Cintiq 13HDはPCと接続して使う
液晶ペンタブレットである一方、
Z CanvasはタブレットPCなので
単純比較はできません。
したがって、
デジタルイラスト制作上の利便性の一点に絞って
比較情報をまとめました。
ここでのCintiq 13HDは
タッチ機能搭載モデル(Cintiq 13HD touch)
を想定しています。
おおまかな比較結果表
まずは比較結果を簡単に表にまとめました。
詳細は後述します。
絵描きの視点として見た場合に、
相対的に利便性が高いだろうと思われる部分には
色を付けてあります。
スマートフォンでご覧になっている方で、
表が切れて見づらい場合は
スマートフォンを横にすると見やすくなります。
項目 | Cintiq 13HD touch | VAIO Z Canvas |
---|---|---|
解像度 | 1920x1080 | 2560x1704 |
画面サイズ | 13.3インチ | 12.3インチ |
ファンクションキー | あり | なし |
デジタイザペンの種類 | ワコム製 | N-trig製 |
ペンのサイドボタン | あり | あり |
ペンの頭の消しゴム機能 | あり | なし |
ペンの電池 | 不要 | 必要(単6) |
筆圧レベル | 2048 | 1024(ソフトウェア) |
傾き検出 | あり | なし |
ペンの位置検出精度 | 面端で悪くなる | かなり高い |
軽いタッチで描けるか | 描ける | 線が途切れる |
ゆっくり描いたときの線の歪み | なし | 若干あり |
タッチ無効ボタン | あり | あり |
視差 | 比較的大きい | ゼロといってもいいほど小さい |
描画遅延 | 小さい | 小さい |
ホバーカーソルの追従性 | ほぼ同時 | 若干遅れ気味? |
AdobeRGBカバー率 | 75% | 95% |
スタンド | 前の方が浮くことも | 安定している |
ペイントソフトの対応 | ほぼ全部 | ほぼ全部 |
やはりCintiq 13HDの方が利便性が高い印象です。
Z Canvasもペックが最高クラスなので、
レイヤーを多用するなどの
負荷のかかるイラスト制作には十分耐えられます。
しかし、Z Canvasは傾き検知がないなど、
細かなペン性能で少し物足りない感じがします。
もちろんCintiq 13HDよりも
Z Canvasの方が優れている点もあるので
ここからは詳細に見ていきます。
画面サイズなどの大きさの比較
まずは大きさについて比較してみましょう。
Cintiq 13HDは外形寸法が375x248x14mm。
画面サイズが13.3インチ。
ファンクションキーという物理ボタン
(タブレットの横にあるボタン)
がある分大きくなります。
作業効率を上げるために設置されたボタンです。
Z Canvasは外形寸法が301 x 213 x 13.6 mm。
Cintiq 13HDの液晶部分に収まるサイズです。
サイズ的にはiPad Proと似通ってます。
鞄に入れて持ち運べるサイズです。
Z Canvasの画面サイズは12.3インチで、
Cintiq 13HDより一回り小さいです。
Cintiq 13HDの方は固定してじっくり
絵を描くことを前提としているので、
絵を描く領域部分がA4サイズとなっています。
これらの違いは使われるシーンの想定の違いでしょう。
解像度はZ Canvasに軍配が上がりました。
2560x1704はCintiq 13HDを超えています。
解像度は極端でなければ高い方が良いでしょう。
アイコンやメニューが小さくなるので、
タップしづらくなるデメリットはありますが。
ペンの仕様についての比較
ここではZ Canvas付属のペンと
Cintiq 13HDのプロペンを
仕様や使い勝手に注目して比較していきます。
プロペンをまじめとするワコムのペンには
ボタンがついています。
このボタンにはショートカットキーを
登録できるので、
いちいちメニュー出してタップして、
なんていう面倒くさいことしなくても、
ワンタッチでその機能を呼び出すことができます。
ボタンのおかげで
デジタルイラストを描く作業効率を
大幅にアップすることができます。
同じ理由で消しゴム機能が
ペンの頭についています。
消しゴムアイコンをタップする回数が減りますからね。
また、ワコムのペンは
電磁誘導方式なので電池が不要です。
そのため電池を内蔵する必要も無く
充電のための端子を作る必要が無いため
様々な機能をペンに持たせることができます。
これと比べると
作業効率向上という視点で見ると
Z Canvasはやはり見劣りします。
クリエイターのために作られただけあって
ペンのサイドボタンはしっかりあります。
ペンにゴムクリップをかぶせても
しっかり反応します。
しかし、ペンは単6の電池が必要なので
その分重くなることに加え、
頭に消しゴム機能をがありません。
この点に関しては
Cintiq 13HDのペンより劣る感じはしますが、
サイドボタンがあるので
ある程度の作業効率は維持できるはずです。
ペンの性能比較(筆圧、傾き、検出精度)
筆圧レベルはCintiq 13HDが2048である一方、
Z Canvasは1024です。
数字の上ではCintiq 13HDが上ですが、
1024あれば普通は問題ありません。
ここからは両者の違いになります。
Cintiq 13HDのプロペンは
ワコムの電磁誘導方式のペンです。
一方、Z Canvasで採用されているペンは
N-trig製のペンです。
この違いは結構大きな違いです。
どちらも一長一短あるのですが、
この違いだけでできることが変わってきます。
ワコムの電磁誘導方式では
ペンの傾きを検出することができます。
N-trig製のペンではそれができません。
N-trig製でも将来的には
傾き検知できるようになるかもしれませんが、
執筆時点ではまだその機能はありません。
従って、
N-trig製を採用しているZ Canvasでは
傾き検知ができないのです。
では、電磁誘導方式が完璧かというと
そういうわけでもありません。
電磁誘導方式の弱点はその位置の検出精度です。
電磁誘導方式のペンでは画面端などでは
位置の検出精度が落ちてしまって
正確な位置に線を描画できなくなってしまいます。
ですので、電磁誘導方式を採用している
Cintiq 13HDのプロペンでは
画面端に行くと精度が落ちるという弱点があります。
とはいっても、
そんなに端で描くことはないので
精度が悪くて困ることは少ないと思います。
傾き検知がどうしても必要な人は
ワコム製品しか選択肢が残らないのが現状です。
海外の値段の安い液タブでも
傾き検出できるものはありますが、
検知できる角度が±20°だったりと、
なんだか心許ないです。
また、N-trig製のペンでは
昔からブレが指摘されていましたが、
Z Canvasではブレが改善されています。
全くないわけではないのですが、
極めてゆっくり動かしたときに若干ゆがむ程度です。
Z Canvasのペンにはもう一つ問題があります。
軽いタッチが非常に苦手なことです。
Cintiq 13HDでは画面をかるーくなぞったら
うっすらと細い線を引けるのですが、
Z Canvasでは軽くなぞると
高い確率で線が途切れてしまいます。
こうして比較してみると、
ペンに関しては、
Cintiq 13HDのペンの方が
作業効率が高い感じがしますね。
視差の比較
視差はデジタルイラストを描く上で
描きやすさの指標の一つです。
視差とは、
見る角度によって生じる、
ペン先と実際に描かれる線の位置のずれのことです。
視差は
ペン先と線が描かれるLCDとの間に
空間があるのが原因です。
視差は物理的に0にはできません。
ですが、
視差が大きいとかなり描きづらくなります。
Cintiq 13HDは液タブの中でも
それなりに小さい方です。
頑張ってる方だと思います。
しかし、
Z Canvasの視差の小ささは驚異的です。
もうほとんどゼロといっていいくらいです。
視差に関しては
Cintiq 13HDはZ Canvasに太刀打ちできません。
遅延やカーソルの追従性の比較
遅延もデジタルイラスト制作では
描きやすさを語る上で大きな問題です。
遅延とは、
ペンを動かしてから実際に線が描かれるまでの時間のことです。
この遅延時間が大きいと
ペンを動かしたずいぶん後に線が描かれるので
非常に描きづらくなります。
Cintiq 13HDもZ Canvasも
遅延に関しては全く問題ないと言えます。
極端に速く動かしたら
さすがに遅れて描画されますけどね。
ただ、Z Canvasでは少し奇妙なことが起こります。
線は素早く描画されるのに
ホバーカーソルの追従性が遅いときがあります。
ペイントソフトが問題なのかなんなのか、
少しペンを動かした後でやっと動き出す感じです。
ファンクションキーの有無についての比較
Cintiq 13HDなどの
ワコムの液晶ペンタブレットには、
ファンクションキーという物理ボタンが横についています。
自分の好きなショートカットキーを割り当てて、
素早く目的に機能にアクセスできるようになります。
拡大縮小、回転、特定の機能の呼び出しなど、
様々な機能を割り当てることができます。
Z Canvasではファンクションキーなどの
物理ボタンはありません。
しかし、Z Canvasでは
タブレット側面のボタンを押すと、
画面内にショートカットメニューが出てきます。
そこにショートカットキーを割り当てることができます。
複雑なコマンドは登録できません。
Cintiqシリーズのように物理ボタンがなくても、
無線のキーボードを使いながら操作できるので
必要なショートカットキーを覚えておけば、
どうしても2本の腕じゃないと
押せないキーの組み合わせ以外はなんとか対応できます。
しかし、Z Canvasの場合は、
一回ボタンを押してからメニューを出し、
それから街頭アイコンをタップする、
といった感じでワンクッション間に入るので
そこはちょっと手間になるかもしれません。
色の再現性について
ディスプレイ性能で重要な要素の一つが
色の再現性です。
色の再現性が低いと
描いている時にモニターで見る色と
印刷したときの色に違いが生じます。
Cintiq 13HDはAdobeRGBカバー率75%で
Z Canvasでは95%・・・
かなり違いますね。
確かにZ Canvasは優秀なのですが、
Z Canvasが優秀というよりも
Cintiq 13HDがひどく劣ってるって感じです。
Cintiq 13HDはなぜこんなに低いのでしょうか。
対策としては、色の再現性の高いモニターに
別ウィンドウで画像を表示して
色を確認しながら描く位のことしかできません。
付属スタンドの比較
Cintiq 13HD同様、
Z Canvasにもスタンドがあります。
もちろんどちらも
スタンドを使用せずにイラストを描けます。
スタンドの仕様や仕様の不具合について比較してみましょう。
Cintiq 13HDのスタンドは
3段階の角度調節ができる仕様です。
しかし、すこぶる評判が悪いです。
まず、
スタンドを本体に設置するときの音が
プラスチックが割れたような音に聞こえます。
壊れたんじゃないかと心配です。
質感もすごく安っぽいです。
また、スタンドを使用している最中に、
力のかけ具合によっては
Cintiq 13HDの前の方が浮いて
後ろに倒れてしまいそうになることがあります。
こんなんじゃ
まともに絵が描けないとさんざんな評価です。
Cintiq 13HDのスタンドは
相当手を抜いて作られているとしか思えません。
一方、Z Canvasはどうかというと
あまりそういった悪い評価は聞きません。
スタンドを動かす様子です。
無段階で角度調節できますし、
筆圧や乗せた手の体重には耐えるのに
角度調節するときは力を必要としません。
ヒンジ機構がうまく機能しているようです。
かなり優秀なスタンドと言えるのではないでしょうか。
本格イラストではCintiq 13HDに軍配
Z Canvasのハードウェアスペックは
確かに素晴らしいのですが、
イラスト用途で利便性を追求した場合は
やっぱりCintiq 13HDという感じですね。
Cintiq 13HDにも
精度やスタンドなどの問題はありますが、
Z Canvasの傾き検知などの
ペン性能の問題と比べると、
まだCintiq 13HDの方が問題が少ない印象です。
Cintiq 13HDはモニターなので
スペックや使えるペイントソフトは
接続するPCに依存します。
ペイントソフトに関しては
事実上全て使えると言って良いでしょう
Z CanvasはタブレットPCです。
タブレットはスペックが貧弱なものが多いです。
しかし、Z Canvasはそんなことはなく、
PCにも引けをとらない素晴らしいスペックです。
ですので、
PCと同じように重い処理にも耐えられます。
iPad Proでは
対応しているペイントソフトが少なくて
困りましたが、
Z CanvasはOSがWindowsであることと、
スペックがすさまじいので、
ほぼ全てのペイントソフトが使えます。
ペイントソフトで苦労することはありません。
レイヤーだって何枚も重ねられます。
傾き検出を一切使わない絵しか描かないなら
Z Canvasでも十分イラスト制作に使えます。
Z Canvasは今後の改良に期待です。
Cintiqシリーズも
まだまだ解決すべき課題があるので
負けずに頑張って欲しいですね。